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決め手は「赤」と山本富士子 小津安二郎とカラー映画 |
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映画「彼岸花」に登場する赤いやかん。スウェーデン・コックムス社の琺瑯(ほうろう)製で「彼岸花」のために小津が買い求めたもの(小津家蔵・鎌倉文学館寄託) |
長く白黒映画を撮ってきた小津安二郎監督初のカラー作品は1958(昭和33)年、有馬稲子がヒロインを演じた「彼岸花」(松竹)です。日本で最初の長編カラー映画「カルメン故郷に帰る」(松竹、監督・木下惠介、主演・高峰秀子)の公開から7年後のことでした。自然な色を再現できるフィルムに出合えず、小津はなかなかカラー映画の製作に移行しませんでしたが、“小津組”カメラマン・厚田雄春が、小津の好きな赤い色を最もよく表現できる西ドイツ・アグファ社のフィルムを見つけます。さらに、第1回のミス日本で大映の専属女優だった山本富士子の特別出演が決まり、松竹の大谷竹次郎会長からせっかくならカラーで撮ってはと提案されたことも製作の大きなきっかけでした。
小津は一場面一場面を絵画のように捉え、フレーム(画面)内の構図や物の配置を、カメラのファインダーごしに自ら決めました。その中にどこかに好みの赤色を配置します。「彼岸花」では、有馬演じる節子の自宅居間にある赤いやかんが際立った働きをしました。あるときは部屋の隅、またあるときは卓袱台(ちゃぶだい)の下と、そのフレームにふさわしい場所に登場。節子の妹・久子(桑野みゆき)にひょいと持ち上げられ、フレーム内を移動することもあります。赤いやかんは意志を持っているかのように、画面を縦横無尽に動き回るのです。本展にもこのやかんは「登場」します。
伝統的なわびさびの精神、ものの哀れ、という考え方に共感してきた小津は「カラーだからこそ色を省く」と語っています。そのカラー映画では、「赤」の表現に注目してみてはいかがでしょうか。
《神奈川県立神奈川近代文学館 斎藤泰子》 |
◆ 「生誕120年 没後60年 小津安二郎展」 ◆
5月28日(日)まで、神奈川県立神奈川近代文学館(みなとみらい線元町・中華街駅徒歩10分)で。
「東京物語」など代表作の監督用台本や絵コンテ、ポスターなど映画資料のほか日記や書画、愛用のピケ帽や酒器など約500点を展示。作品世界とともに神奈川とゆかりの深い生涯も紹介している。
観覧料一般800円、65歳以上400円。問い合わせは Tel.045・622・6666 |
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