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細部にまでこだわった「本の宝石」 童画家・武井武雄 |
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『ナイルの葦』表紙(左)とお菓子の「敷紙」(神奈川県立神奈川近代文学館蔵 ©岡谷市・イルフ童画館) |
童話作家であり、また童話などの挿絵を“童画”と命名し、自ら子どもたちに向けて美しい絵を描き続けた童画家・武井武雄(1894〜1983)。「定年時代」の読者なら、名前は知らなくても幼いころ絵雑誌などでその作品に一度は触れたことがあるのではないでしょうか。
その武井が半世紀あまり創り続けた画文集が、「武井武雄刊本作品」です。通算139作が制作されました。本という形式で最高の芸術を生み出そうと、あらゆる素材、印刷技法に挑み、それにふさわしい挿絵や文章も自ら描いて創作。「親類」と呼ばれた約300人の限定会員しか入手できない希少性から、「本の宝石」とも呼ばれるコレクターズアイテムとなっています。
そのうちの一作「ナイルの葦」は、武井のこだわりを象徴する逸品。なんと古代エジプト時代に起源を持つパピルスに印刷された作品です。岐阜県高冷地農業試験場勤務で「親類」の一人・安土孝の提案を受け、武井は「紙=Paper」の語源にもなっているパピルスによる本創りに挑み始めました。安土は、1976年6月、パピルス草の温室栽培に着手。刈り取り後、茎の髄を取り出し並べてたたき、圧着、乾燥させて完成となりますが、全ては手作業で一日に3枚しか漉(す)けません。限定300部に必要なパピルスが武井の手元に届いたのは79年10月。さらに前代未聞のパピルスへの凸版印刷、製本にはさらに慎重に取り組まなくてはなりませんでしたが、80年3月、ようやく完成にこぎつけました。
ただ、これで終わりではありません。毎作、完成した本を武井が手ずから「親類」たちに手渡す会が開かれ、その席上にお菓子が配られるのですが、「ナイルの葦」の会では、お菓子の「敷紙」まで武井の絵を印刷したパピルスで、しかも本作では見られない2色刷りになっていました。「刊本作品」のみならず、「刊本作品」を仲立ちとした「親類」たちとの小さな楽しみを共有する時間を終生大切にしていた武井の気概が、この「敷紙」に表れています。
《神奈川県立神奈川近代文学館 半田典子》 |
◆ 「本の芸術家・武井武雄展」 ◆
7月23日(日)まで、神奈川県立神奈川近代文学館(みなとみらい線元町・中華街駅徒歩10分)で。
「親類」の一人・平尾榮美氏の遺族から同館に寄贈された約1800点のコレクションを中心に、「刊本作品」全139作品とイルフ童画館所蔵の原画などを展示。没後40年を迎える武井の足跡とともに紹介する。
観覧料一般500円、65歳以上250円。問い合わせは同館 Tel.045・622・6666 |
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