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輿で運ばれるマルキ(ミイラ)。
先住民記録者ワマン・ポーマが17世紀初めに描いた絵 |
南米ペルーの南東、海抜約3400メートルに位置するクスコ市は、かつてアンデス山脈沿いに長大な国をつくって栄えたインカ王国(インカ帝国とも)の首都でした。1533年、フランシスコ・ピサロに率いられたスペイン人の一団がクスコを占領し、インカ王国は滅亡するのですが、この町で彼らは奇妙な光景を目にすることになります。
インカの人々は、暦の上の主要な月に「創造神ビラコチャ」、「太陽神インティ」などの神々を祭る大祭を催しました。そのとき、驚くことに初代王以来十数代にわたる歴代の王たちもやって来て、列席していたのです。
先代以前の王たちは、もちろん既に亡くなっています。ここに参加したのは、実は輿(こし)に乗せられてやって来た「マルキ」、すなわちインカの言葉でいうミイラでした。マルキとなったとはいえ、先代の王たちは、従者の介添えを受けながら現在の王とともに神々を崇(あが)め、談笑し、互いに酒を酌み交わしました。そのありさまは、生者の姿に変わらなかったといいます。
インカ王国では、王は亡くなった後もマルキとなって、私領から上がる収益を基に子孫とともに王宮に住み続けました。即位した新王は、いわば身一つで父王の宮殿を出て、新しい宮殿と領地(私領)をつくって暮らしたのです。インカ王国では、王は時とともにその数を増やしていったともいえるのです。
《東海大学名誉教授・松本亮三》 |
◆ アストライアの会講演会「劇場国家インカの祭りと儀礼」 ◆
9日(土)午後2時〜5時、としま区民センター(JR池袋駅徒歩5分)会議室401で。
文字を持たないインカ文明では、民衆に王の権威を可視化する祭りとさまざまな儀礼は重要であった。当日はゲストに、東海大学名誉教授で比較文明学会元会長の松本亮三氏を招き、インカ文明のさまざまな祭りと儀礼を考察する。後半には、ゲストを交えたお茶会も。
参加費2000円(お茶代込み)。問い合わせはアストライアの会・松原 Tel.049・258・3218 |
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