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「音楽の感動は心を育む」 ピアニスト・仲道郁代さん |
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子育てと演奏活動を両立させた仲道さんは「心から『娘がいとおしい』『(ピアノを)弾きたい』と思っていたから続けられた」とほほ笑む。「10分ほどの隙間時間があれば練習。『隙間』を積み重ねれば、結構時間はつくれると気付きました」。長女が乳幼児のころは“子連れアーティスト”と珍しがられたが、「今は、そうした人がかなり増えましたね」 |
デビュー30周年公演に意欲
今秋、デビュー30周年を迎えたピアニスト・仲道郁代さん(53)は、「難しいことから逃げていては、人生つまらない」と話す。芸術の追究、出産・子育てと演奏活動の両立、子どもたちに音楽の楽しさを伝える取り組み…。「山あり谷ありだったけど、超前向き思考で挑んできた」とほほ笑む。来秋までの1年間は、30周年の記念公演に力を注ぐ。「本当に素晴らしいものは、みんなに伝わる」。実感の蓄積を胸に言葉を継ぐ。「感動との出合い、感動の深まりは、人の柔らかな心を育んでくれます」
自身の出産、母親の病死、ベートーベンのピアノ・ソナタ全32曲演奏への挑戦…。「まさに立て続け。“えらいこっちゃ”でした」。穏やかな笑みを浮かべ、仲道さんは振り返る。デビュー10周年の1996年秋、長女誕生の喜びに包まれたのもつかの間、育児の“ばあや”を自任していた仲道さんの母親は翌年、「がん再発」のため57歳で帰らぬ人になった。「子連れピアニスト」として4年間かけ、32曲の演奏を成し遂げた仲道さんは現在、亡き母の「がん発病時」と同じ年齢に。「人生、いつまでも続くわけではない。『今』できることは『今』しないと…。その思いはますます強くなっています」
仲道さんがピアノを始めたのは4歳の時。静岡県浜松市の自宅にピアノが届いた日は、「胸が高鳴った」と回想する。父親の仕事の関係で、中学時代はアメリカ・ミシガン州へ。緊張しやすく引っ込み思案だったというが、「アメリカでは(私の)演奏後、拍手喝采。『音楽に言葉の壁はない』と心底思った」。帰国後は桐朋学園大に進学し、日本音楽コンクールピアノ部門で第1位に。演奏依頼が相次いだにもかかわらず、やがてドイツに留学した。「当時の私(の演奏)はあまりにも未熟でした」
ミュンヘン国立音楽大に在学中、ジュネーブ国際音楽コンクール最高位に輝き、エリザベート王妃国際音楽コンクールでも入賞した。87年秋、プロとして演奏活動を開始。当初は幼いころから大好きだったショパンやシューマン、モーツァルトを軸にしながらも、着実にレパートリーを増やした。とりわけベートーベンの楽曲は、「私の音楽に対する考えを深めてくれた」。ベートーベン研究でも知られた作曲家・諸井誠とは何度もレクチャー・コンサートで共演し薫陶を受けた。「論理がないと良い演奏はできない。かといって論理を説明するための演奏から感動は生まれない」。仲道さんは楽譜を徹底的に読み込み、作曲家の思いをくみ取っていく。「感性と論理がうまく融合すれば、音符という記号は輝きを放つ。それが『できた!』と思えた時は、たまらなくうれしい」
“経験を経た青春”
30周年記念としてことし9月、CD「永遠のショパン」(DVD付き)を発売したのを皮切りに、シューマン、モーツァルト、ベートーベンのCD収録・発表も予定する。今や人気、実力とも日本を代表するピアニストの一人といわれる仲道さんはよどみない。「4人の楽曲の特徴はそれぞれ違う。弾き方も全く変わってきます」
来秋まで各地で予定する30周年記念公演では、「これまでの記憶をたどり、新しいステップを踏み出す決意を込めた構成にします」。1月29日、オーケストラと協演するコンサートには、指揮に小林研一郎を迎える。予定曲の一つは25年前、小林らと共に行ったヨーロッパ公演で弾いた、ショパンの「ピアノ協奏曲第1番」。仲道さんは「私にとって思い入れの深い曲。『現時点の集大成』と位置付け(演奏に)臨みたい」と目を輝かせる。デビュー10周年の時、生まれた長女は20歳に。「親離れしてしまい、ママは寂しい」と苦笑しながらも、「今は出産前と同じくらい音楽に費やす時間がある。“経験を積んだ青春”を謳歌(おうか)中」と快活だ。
育児経験も生かす
「クラシック音楽の裾野を広げる工夫も考えている」。芝居の要素を取り入れた「音楽学校」などを企画してきた仲道さんは、子どもが鑑賞のほか、メロディー作りを体験するワークショップなどを企画し、全国各地に足を延ばす。「演奏中、3歳児はじっと座っていられるか?…、子育てをする中、『イエス』との確信が持てた」。クラシックは分かりやすさと奥深さを併せ持つ芸術と信じるだけに、言葉が熱を帯びる。「クラシックがもっと日々の生活に解け込んでいけば、私たちの心も潤いを増すと思います」 |
小林研一郎 ©Satoru Mitsuta |
♪仲道郁代 ピアノ・コンサート
1月29日(日)午後2時開演、サントリーホール(地下鉄六本木一丁目駅徒歩5分)で。
予定曲:ショパン「ピアノ協奏曲第1番ホ短調」、チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番変ロ短調」ほか。
指揮:小林研一郎、演奏:東京フィルハーモニー交響楽団。
全席指定S席6000円、A席5000円。65歳以上S席5400円、A席4500円。ジャパン・アーツぴあ Tel.03・5774・3040 |
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