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  東京版 令和5年3月下旬号  
移民の「尊厳」問い掛け  ベルギーの映画監督・ダルデンヌ兄弟

来日中は取材への対応に追われ、観光する時間はほとんどないというダルデンヌ兄弟。「その代わりさまざまな日本食を食べて日本を味わっています」。てんぷらや刺し身など、和食は何でも好きでラーメンなどの「辛いヌードル系のものも食べますよ」(左が兄のジャン=ピエール)
映画「トリとロキタ」、31日から公開
 社会の底辺で生きる人々を描くことで現代社会の問題にスポットを当てるベルギーの映画監督・ダルデンヌ兄弟。彼らの新作「トリとロキタ」が31日から公開される。ある新聞報道から着想を得たという同作では、アフリカからベルギーに渡って来た偽りの姉弟(きょうだい)を主人公に、移民問題を取り上げた。「アフリカ系の子どもたちが闇社会に飲み込まれている現実と、それに無関心な社会に憤りを感じたのが製作の動機だった」と同兄弟。「移民問題」は人口が減少し続ける日本にとっても大きな課題だが、「決して彼らを脅威だと思わないでほしい」と訴える。

  兄のジャン=ピエール・ダルデンヌ(71)と弟のリュック・ダルデンヌ(69)。約3歳違いの兄弟監督は1990年代「ロゼッタ」、2000年代「ある子供」、10年代「少年と自転車」など、各年代に傑作を生み出してきた。そして、20年代最初の作品「トリとロキタ」では、祖国から逃れたきた人間の尊厳を軽視しがちな社会に疑問を突き付ける。

 物語の舞台「ベルギー・リエージュ」は、アフリカから地中海を渡ってヨーロッパにやって来た人々が暮らしている街。同様にベルギーに流れ着いた少年トリはまだ子どもだが、しっかり者だ。

 そして、10代後半の少女ロキタは祖国にいる家族へ仕送りするためにドラッグの運び屋をしている。偽りの姉弟としてこの街で生きる2人はどんなときでも一緒。年上のロキタはトリを守り、トリは時折、不安定になるロキタを支える。そして、まともな仕事に就くために偽造ビザ(査証)を手に入れたいロキタは危険な闇組織の仕事に手を染める…。

カンヌの“常連”
 「世界三大映画祭」の一つカンヌ国際映画祭の最高の栄誉、パルム・ドールをこれまで2度受賞し、99年の「ロゼッタ」以降、9作品全てが同映画祭の中心となるコンペティション部門に出品されるなど、“ベルギーの名匠”とうたわれているダルデンヌ兄弟。彼らが「トリとロキタの映画を撮ろう」と思い立ったのは、3年ほど前に、ある新聞記事を読んだことが契機だった。その記事にはこう書いてあったという。

 〈アフリカから来る移民の子どもたちがベルギーに着いてから消息が分からなくなっている。そして、彼らの一部が犯罪組織に巻き込まれ最悪の場合、殺されて亡くなっている子も大勢いるらしい。16、17歳の子どもがベルギーに長期間滞在するビザが取れないと分かった途端、闇社会に飲み込まれてしまっている〉

 「それを読んで私たちは『これは普通ではない。これはあってはならないことだ』と思いました。18歳でビザがもらえないと強制送還されてしまうので、それが取れないと分かると闇社会に行かざるを得ない。そんな彼らの消息が分からなくなっても人々が無関心なことに憤りを感じて、今回の映画を撮ることにしました」

 ダルデンヌ兄弟は知り合いの麻薬取締官など、さまざまな人に取材して脚本を書き、BGM(背景音楽)を排した緊迫感あふれる画面を作っていった。トリとロキタ役の2人は演技未経験だったが、定評ある監督の演出もあり、家族のような絆で結ばれる“姉弟”を自然に演じた。

移民受け入れ制度を
 今回が9度目の来日になるダルデンヌ兄弟。「日本の移民の状況についてはよく知らない」と断りつつも、「どの国でも言えること」として挙げるのは、移住した国で移民が生きていけるように法律を整備することだと話す。「特に若い移民の人たちが、その国で職業訓練校に通って職業に就けるとか、学業を続けることが可能になるような法律を作ることが必要です。決して彼らを脅威だと思わないでほしい」


Photos © Christine Plenus
「トリとロキタ」 ベルギー=フランス映画
 監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、出演:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アウバン・ウカイほか。89分。

 31日(金)から、ヒューマントラストシネマ有楽町(Tel.03・6259・8608)ほかで全国順次公開。

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