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  東京版 令和5年6月下旬号  
今も“歌の旅”の途中  歌手・芹洋子さん

芹さんはデビュー当時、1970年からNHKの子ども向け音楽番組「歌はともだち」に出演。司会や歌い手として、観客の中に分け入ってともに歌を楽しむ芹さんの歌唱スタイルはこのころより育まれた。「偶然ですが、コンサート当日に共演する児童合唱団の指揮者の人が、幼少時に同番組で私と一緒に歌ったことがあるそうなんです。何十年越しかの共演となります。楽しみです」
7月の東京公演皮切りに全国ツアー
 「♪春を愛する人は〜」でおなじみの国民的愛唱歌「四季の歌」や数々の名曲・童謡などを歌い継ぐ歌手の芹洋子さん(72)。色紙によく書く言葉が「出逢い、ふれあい、歌いあい」との通り、“旅と人と歌”をこよなく愛する芹さんは、古希を越えた現在もステージに立ち続ける自身について、「今も旅の途中」とほほ笑む。そんな芹さんが7月の東京公演を皮切りに、地元の合唱団と共演して歌う全国ツアーに旅立つ。「歌声を通じて、合唱団や観客の皆さん一人一人との一期一会を楽しみたいですね」

  コンサートを主催するのは、(一社)日本セカンドライフ協会。シニア世代の学びやサークル活動を支える同団体の活動周知と創設30周年を記念し、シニア世代にファンが多く、若い世代とも歌声を通じて価値観を共有できる芹さんに白羽の矢が立った格好だ。「当日は、児童合唱団を含め幅広い世代の地元の合唱団の皆さまと、トークや歌を通じてともに楽しみたいと思います」

 コロナ禍の前、コンサートでの芹さんはステージを降りて観客の中に分け入り、時には肩を並べ会場全体で一つの歌を合唱するなど、“業界一、観客と距離の近い歌手”を自負していた。しかし、コロナ禍で観客との声出しでのやり取りや接触は禁止に。これまで築き上げてきた歌唱スタイルが全て否定され、頭を抱えたという。

 「それでも、私の歌を聞きに来ていただいた皆さんの健康を脅かすわけにはいきません。命は何よりも大事です」と、厳しい状況でも前を向く。「コロナ禍は私に、そして人類に対して大きな宿題を出したのだと思います」

 そして、芹さんはこう続ける。「人は支えあうもの。一人では絶対生きていけません。だから“触れあい”はどんな状況でも必要。コロナ禍で人と人をつなぐ絆が試されているような気がします。困っている人にいつでも寄り添えるように、これまでに代わる新しい形をつくり上げなければなりません」

目の高さを同じに
 その手段の一つとして「リモート」を選択する人は多いが、納得できなかった芹さんはステージに椅子を一脚置くようになった。そこに座って歌い、そして話したとき観客と同じ目線に立てるのだという。「観客の皆さんに近づき一緒にステージをつくり上げるのは私の原点。肉体的に距離を詰めるのが難しいならば、心の距離だけでも近づきたいのです」

 学生時代、音楽教師の母の影響で歌は好きだったが、当初から歌手を目指していたわけではないと芹さん。「旅が好きでした。『旅へ行かない会』というサークルに在籍し、学生ですからお金がありませんので、白地図上で旅行を楽しんでいました(笑)」。そんな芹さんにとり国内外のステージを歌いながら旅する歌手は、「まさに天職」。

 10代後半のデビュー当時、川崎労音「うたの広場」としてコンサートを毎月1回開催し、労働者とともに市井で口ずさまれた歌を歌ったのも芹さんの原点の一つだ。「ステージ上で歌唱指導をしながら、皆さんからリクエストされた隠れた名曲を一緒に歌い上げるのは、何物に代えがたい喜びでした」とほほ笑む。そこで発掘された「四季の歌」は、今も芹さんを支える代表曲だ。

記憶喪失の後に…
 1976年にレコード化された芹さんの歌う「四季の歌」はミリオンセラーを記録したほか、「坊がつる讃歌」(78年)などのヒット曲にも恵まれ、順風満帆な歌手人生を送っていた。そんなある日、芹さんに試練が襲う。92年、交通事故により外傷性くも膜下出血に倒れ、自分さえ誰かも忘れる重度の記憶障害を発症したのだ。だが、驚くことにその1カ月後には復帰公演を果たす。「リハビリの一環でコンサートに出演しました。フィナーレの『四季の歌』で“秋”の歌詞が思い出せず、頭が真っ白になりましたが、会場の皆さんが残りの歌詞を大合唱してくれました。奇跡のようなコンサートでした」

 事故後は、「『第2の人生』をもらったものと思っています」と語る芹さん。30数年過ぎてもいまだに記憶の欠落はあるが、「だからこそ今は一日一日を意味あるものとして、一生懸命生きるようになりました。どんな状況でも前を向いて歩いていきたい。かつての青春時代のようにね」。

ガラス工芸と二刀流
 「いつまでも歌が歌えるとは限らない」と事故後に危機感を覚え、歌以外にも自身の表現手段として新しい趣味を探した芹さん。そんな彼女を魅了したのが、ステンドグラスだ。「ガラス工芸には1枚として同じ色はありません。透明なガラスは、鉱物との反応でさまざまな色へと変化します。それを一片一片、パズルのように組み合わせていく楽しさに取りつかれました」。今や自身の創作だけでなく、カルチャー講座などの講師も務め、歌手との“二刀流”生活を送る。

 「ガラスと同じく、毎日の生活も、一日として“同じ色”の生活はありません。一日一日を一生懸命生きると考えたとき、年齢を理由に引退を考えることはなくなりました。それにこのごろは“頼み上手”になりましたから、周りの人に助けられながらいろいろなことに挑戦し、今も青春時代の旅を続けています」

♪日本セカンドライフ協会設立30周年記念特別公演
 「四季の歌 芹洋子コンサート」(東京公演)♪

 7月31日(月)午後1時半、江東区文化センター(地下鉄東陽町駅徒歩5分)ホールで。

 予定曲:「四季の歌」「ふるさと」ほか。出演:芹洋子、東京滝野川少年少女合唱団、倶楽部グリー(早稲田大学グリークラブOB合唱団)ほか。

 全席自由3500円。問い合わせは(株)インターナショナル・カルチャー Tel.03・3402・2171

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