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白川さんは還暦を迎えたときに「今までと違うことをやってみたい」と思い、同じ劇団兼芸能事務所「WAHAHA本舗」に所属するジジ・ぶぅと漫才コンビを結成。日本一の漫才師を決める大会「M-1グランプリ」に2度出演した。「2度とも2回戦で負けたんですが、1回戦をクリアしただけでも上出来だといわれました」。義理に厚く研究熱心な白川さんは、本職の芸人への礼儀を込めて、図書館にこもって漫才の歴史から学んだという |
映画「春画先生」に出演
「笑い絵」と称される春画。その世界に魅せられたおかしな者たちを描くコメディー映画「春画先生」が10月13日から全国で公開される。同映画の家政婦役で出演しているのが、かつて日活ロマンポルノ「団地妻」シリーズで人気を博し、以来長く映画やテレビ、舞台で存在感のある女性を演じる女優の白川和子さん(75)だ。江戸時代、男女が共に見て笑い、楽しむものだったという春画の世界。「そんな春画の魅力を知ってもらうために少しでもお役に立てれば、との思いで演じました。映画の家政婦さんは老女ですが、主人公の“春画先生”に恋する若い女性に対して嫉妬する気持ちもあります。そんな女心が表現できれば、と挑戦しました」
“春画先生”と呼ばれ、変わり者で有名な春画研究者・芳賀一郎は妻に先立たれた後、世捨て人のように一人で研究に没頭していた。そんな芳賀から春画鑑賞を学び、その奥深い魅力に心を奪われた春野弓子は、やがて芳賀に恋心を抱いていく。そこへ、芳賀が執筆する「春画大全」を早く完成させようと躍起になっている編集者の辻村や、芳賀の亡き妻の姉、一葉の登場で波乱が巻き起こって…。
「監督からいただいた『春画先生』の脚本を読み終え、約50年前の撮影現場に引き戻され、新鮮な気持ちになりました」と話す白川さん。“日活ロマンポルノの女王”と呼ばれ、約20作もの作品に出演していた当時のことが台本を読んでいて思い出されたという。春画とポルノ映画には、表立って表現できない性的領域で創造を試みてきた点が共通していると感じている。
1971年、経営難に陥っていた日活(株)が社運を懸けて製作した日活ロマンポルノ第1作「団地妻 昼下りの情事」は公開されると間もなく大ヒット。跡見学園女子大学を2年生で中退した後、24歳で同作に主演した白川さんは、マスコミから大きく取り上げられるようになる。しかし、そのために両親に内緒で同作に出演したことがばれてしまった。高度成長期の終盤だった当時の社会は、“ポルノ”に対する風当たりが、現代とは比較にならないくらい強かった。防衛庁(現・防衛省)勤務だった父は激怒し一時は辞職も覚悟、妹の縁談も破談になったという。しかし、「芝居をやめるくらいなら死ぬしかない」と思い詰めていた白川さんは、「10年後には立派な女優さんになれるように頑張る」と父を説得する。そして、父から言われた「深みのある人間になりなさい」という言葉を糧に、また母が台所のホワイトボードに書いてくれた「継続は力なり」という言葉に励まされて今日まで女優を続けてきた。
抗議が転機に
そもそも白川さんが演劇を志すようになったのは、父の転勤に伴い長崎県佐世保市から家族と共に移り住んだ東京で女優、市原悦子の舞台を見て感動したことがきっかけ。高校(都立目黒高校)で演劇部に所属していた白川さんは、大学に進学してから「女優になろう」と決心し、劇団「赤と黒」に入団。同劇団とは別にピンク映画にも出演していた。
そんなとき大手映画会社、日活がロマンポルノを製作するのを知り、抗議するためにオーディションを受けに行く。「これまで“ピンク映画が”と言ってさげすんできた大手が、小さなピンク映画会社をつぶすようなことをするのか、と嫌だった」。面接で文句を言って退席したが、日活は同第1作の主演女優として白川さんに白羽の矢を立てる。抗議に行ったはずの白川さんが、逆に出演することになった。
栄誉を墓前に報告
日活ロマンポルノでメジャーデビューした白川さんの女優人生は結婚を機にいったん73年で終了するが、76年に女優に復帰。以降は、映画やテレビに多数出演し、存在感のある演技を見せるようになる。映画では、「復讐するは我にあり」(79年)、「凶悪」(2013年)、「Vision」(18年)、「山女」(23年)などに、またドラマでは、「夏子の酒」(94年)、「Dr.コトー診療所」(03年)などに出演している。
そんな白川さんは71歳のとき、女優としての長年の功績に対して第73回毎日映画コンクール「田中絹代賞」を受賞する。日本を代表する女優の一人、田中絹代の名前を冠し、その業績を継ぐ可能性がある女優に贈られるという同賞を受賞する栄誉に輝く。このとき白川さんは、「女優を長く続けてきてよかった。亡き両親に感謝したい」と喜びの涙を流し、「将来、立派な女優になる」という両親への約束を果たせた気持ちでいっぱいになった。
これまで、「どんな役でも女性らしさを表現できるよう心掛けてきた」という白川さん。今回の「春画先生」で演じた家政婦の役でも、「若い人にはない“年輪”みたいなものが出せればと思って演じた」と話す。「家政婦さんは“春画先生”を独占していたいという気持ちがあったと思うんです。そんな老女の内面の部分が何らかの形で出てくればいいなと」
離婚(のちに同じ人と再婚、今年2月に死別)や、病気(子宮がん、脳梗塞、慢性すい炎)など、人生のさまざまな苦労を乗り越えてきた白川さんだが、女優としては「まだまだ納得できていない」と話す。「出演した作品ごとにベストを尽くしていますが、後で反省することも多い。恐らく、これからも女優として満足することはないと思います。だから、女優を続けられるのかもしれません」と、真摯(しんし)な姿勢で演技に臨む。 |
©2023「春画先生」製作委員会 |
「春画先生」 日本映画
監督・原作・脚本:塩田明彦、出演:内野聖陽、北香那、柄本佑、白川和子、安達祐実ほか。114分。
10月13日(金)から、新宿ピカデリー(Tel.050・6861・3011)ほかで全国公開。 |
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