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  東京版 令和5年11月上旬号  
23年ぶりの出演…今度は主役に  俳優・高橋和也さん

高橋さんは昨年から今年にかけて、約1年の期間限定で活動を再開した男闘呼組のコンサートを東京、大阪、名古屋などで行った。そしてあらためて思ったのは、「演劇でもコンサートでも、舞台は客席の皆さんと一緒になってつくるもの」ということ。「おなかの底から笑い、泣く観客の姿を見ると、演じる側の僕らもすごく感動します」。男闘呼組は惜しまれつつ解散したが、その後継バンド「ロックオン・ソーシャル・クラブ」のセカンドアルバムが近く発売されるという
9日から舞台「連鎖街のひとびと」
 1945(昭和20)年、敗戦直後の“満州国”(現・中国東北地区)大連市の繁華街「連鎖街」に取り残された人々を描いた悲喜劇、井上ひさし作「連鎖街のひとびと」が9日から約21年ぶりに上演される。今回、劇作家役で主演するのは俳優・ミュージシャンとして活躍している高橋和也さん(54)だ。23年前の初演で若い作曲家役を演じた「思い出深い作品」と話す高橋さん。「今度は、自分が(初演時の)辻萬長さんが務めた役を演じ、新しいキャストの皆さんと一緒に舞台を作り上げる立場。その責任を感じています」

 「連鎖街のひとびと」は、劇作家で小説家の井上ひさし(1934〜2010)がモリエール、シェークスピア、チェーホフらを意識して書いた戯曲。日本人が「満州国」に夢を求めてたどりついた街・大連が舞台だ。45年8月末、ソ連(現・ロシア)軍政下の大連・連鎖街にある「今西ホテル」地下室では、3人の劇作家がソ連の通訳将校歓迎会で催される劇の台本作りに必死で取り組んでいた。もし、期日までに良い台本ができなければ「シベリア送りになる」という危機感の中で…。

 同作は2000年に初演、01〜02年に再演(共に、こまつ座、鵜山仁演出)され、今回で3度目の上演となる。初演時の高橋さんは31歳。既に、原田眞人監督「KAMIKAZE TAXI」(95年)や栗山民也演出の舞台で主役を務め、市川崑、伊丹十三の映画に出演するなど、俳優としてのキャリアを順調に積み上げていた時期だった。

 そんな高橋さんは「連鎖街のひとびと」の稽古に入って間もなく驚かされた。井上ひさしの台本が完成していなかったからだ。「実は、台本が未完成というのはこのときが初体験でした」。それから23年がたった今、台本が遅れた事情がよく分かるという。「井上先生は時間をかけ考え抜いて台本を書き上げられていた。だからこそ、重層的に練り上げられた戯曲ができる。今はそんな作品に出合える幸せをすごく感じています」

「男闘呼組」で人気
 69(昭和44)年、世田谷に生まれた高橋さんは、新宿でカントリーバーを運営していた父の影響で幼いころからカントリー音楽に慣れ親しんできた。音楽への興味から歌手に憧れるようになった高橋さんは、ボーカルとベースを担当して88年にロックバンド「男闘呼組」でデビューする。同バンドで音楽活動を開始する一方、メンバー4人で主演した映画「ロックよ、静かに流れよ」(88年)を皮切りに映画やドラマに多く出演するようになり、演劇では90年に蜷川幸雄演出「ペール・ギュント」で初舞台を踏んだ。

音楽活動は継続
 高橋さんは次第に俳優としての活動を本格化させる中、93年にジャニーズ事務所(現・SMILE—UP.)を退所し、男闘呼組も活動を休止することに—。ただ、音楽好きな高橋さんは、男闘呼組の活動休止後もいろんなミュージシャンとバンドを組み、現在まで音楽活動を続けてきた。そんな高橋さんは、「俳優とミュージシャンは自分にとって表現活動の両輪になっている」と話す。「劇空間で役を演じるには、演じる人物について多くのことを学び、知らなければなりません。それが演じることの醍醐味(だいごみ)でもあると思うんですが、一方で、自分のオリジナルな言葉やメロディーで曲を作り、演奏することも人生を充実させる意味ですごく大切なんです」

 俳優とともに大切にしてきた音楽活動だが、高橋さんは40歳を過ぎたころ一時的にバンド内の人間関係に疲れを感じるようになった。そんなとき、たまたま父のレコードコレクションにあったカントリー音楽の巨人、ハンク・ウィリアムズの曲を聞いてみた。「シンプルなメロディーなのになぜ、こんなにも心を打つんだろう」と感動し、レコードを聞きながら1曲ずつ曲を覚えていった。そして、自宅近くにあったカントリーバーを訪ね、ハンク・ウィリアムズ“狂”のマスターに歌を聞いてもらう。「マスターが私の歌うハンクの曲をじっと聞きながら、ときどき『うん、そこの発音が違う。もう一回曲をよく聞いて、歌ってみな』と。これを延々とやるわけですよ。まさに、『ハンク・ウィリアムズ道場』でした」。高橋さんは10年間、その店を訪ねては夢中になってハンク・ウィリアムズの曲を教わりつつ歌ったという。

作品への思い継承
 そんな“ハンク・ウィリアムズ道場”の先生だったマスターも亡くなり、時の移り変わりの早さにがくぜんとする思いだという高橋さん。「久しぶりに『連鎖街』の台本を読んでいると、先輩たちの演じる姿が目に浮かんできました。このときに共演した萬長さんや藤木孝さんらも亡くなってしまい、今ではもういないんですから」。公演初日に井上ひさしから「よくやってくれた」と焼き肉をごちそうになったことも、思い出深い一コマだ。

 今年は、井上ひさしが自作のみを上演する「こまつ座」を立ち上げて40周年。その節目の年に「連鎖街のひとびと」が上演される。初演以来の出演となる高橋さんは、「自分が再び出演することは、井上先生や萬長さんらの、この作品に対する思いを受け継いでいくことだと思っています」と話し、「連鎖街」の舞台に再び立つことの意味をかみしめる。

こまつ座第148回公演 「連鎖街のひとびと」
 9日(木)〜12月3日(日)、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA(JR新宿駅徒歩5分)で。全26公演(午後1時からの昼公演20公演、同6時半からの夜公演6公演)。

 作:井上ひさし、演出:鵜山仁、出演:高橋和也、千葉哲也、加納幸和、鍛治直人、西川大貴、朴勝哲、石橋徹郎、霧矢大夢。昼公演:全席指定。一般8800円、夜公演:同7000円、U-30(観劇時30歳以下)6600円、高校生以下2000円(こまつ座のみ取り扱い)。

 問い合わせはこまつ座 Tel.03・3862・5941

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