|
|
「終活」にも自分らしさを NPO法人「人生まるごと支援」理事長・三国浩晃さん |
|
|
|
法人「人生まるごと支援」は現在、約20人と任意後見契約を交わしている。三国さんは「設立時から『本人の意思に背かない』という方針は一貫している」と言う一方、「経験を重ねることで、僕たちの対応力は着実に上がってきた」と強調する。例えば依頼者が「最期まで在宅」を希望した場合、「以前なら『さすがに無理では…』と悩んだケースでも、今なら『大丈夫です』と自信を持って言えることが多いです」 |
自著「おひとりさまで逝こう」に思い込める
自分らしさが生きる「終活」を—。中高年層の終活の「お手伝い」をするNPO法人「人生まるごと支援」理事長の三国浩晃さん(54)は、「生と死は地続き」と明言する。介護、看取(みと)り、そして死後…。自著の「おひとりさまで逝(ゆ)こう 最期まで自分らしく」には、各段階の課題とともに、解決のヒントを散りばめた。「日本初の葬儀社紹介会社」の創業者でもある三国さんは、「僕も『おひとりさま』」と苦笑しながら、こう続ける。「“おひとりさま予備軍”も数多い。『誰かが何とかしてくれる』は禁物です」
急病、認知症、終末医療、葬儀、遺品整理、相続…。三国さんは「人生まるごと支援」の相談員として、一人一人に具体例を示し、単刀直入に問い掛ける。「がん告知の際に同席してくれる人は?」、「認知症になったら、お金の管理を誰にお願いしますか?」、「遺骨を引き取ってくれる人は?」
豊富な支援経験を踏まえ力説する。「死後を含めて、人生を託せる人、つまり『キーパーソン』が一番のキーワード」。しかし、元気な頃からキーパーソンを探す人は数少ない。途方に暮れる「おひとりさま」にたびたび接してきた三国さんは、「離婚して子どもがいない僕にとっても、人ごとではない」とかみ締める。「『この人は将来の自分かもしれない。何とかしなければ…』という気持ちです」
横浜市生まれの三国さんは1998年、29歳で勤めていた結婚式場会社を辞め、「東京葬儀社総合案内センター」の運営会社を設立。「新潟出身の両親は、(横浜で)祖母の葬儀で苦労した。結婚式場情報と違い、葬儀社情報は見当たりませんでした」と回想する。起業後は「年々、身寄りのない人の死が増えていると実感した」。社会学者・上野千鶴子の著書「おひとりさまの老後」(07年、法研)を熟読し、老人学の研究者・宮内康二が主宰していた「東京大学市民後見人養成講座」を受講した。10年に「人生まるごと支援」を立ち上げ、「生」の領域にも活動の場を拡大。設立記念の講演依頼を快諾した上野は、三国さんに語り掛けた。「(おひとりさまの)事例を積み重ねてください。それはあなたの『宝物』になります」
元気な頃からの「見守り支援」、認知症を視野に入れた「任意後見支援」、看取りを含む「旅立ち支援(死後事務支援)」が、NPO活動の三本柱だ。本人に十分な判断力があるうちに交わす任意後見契約など、キーパーソンの「受け皿」にもなり得るが、「お金だってそれなりにかかる。簡単に(依頼を)受けることは決してない」と断言する。「本当は家族や近親者など、ごく近しい人がキーパーソンになった方がいい」。キーパーソンの条件を三つ挙げる。「依頼者のことをよく知っている」、「『いざ!』というときに連絡がつき、駆け付けてもらえる」、そして「依頼者より若く、先に認知症になりそうにない」。その上で、「大前提」を強調する。「キーパーソンを頼む人、頼まれる人の双方に、『いずれは訪れる死』を念頭に置いた、ある種の『覚悟』が必要です」
「〔増補版〕おひとりさまで逝こう
最期まで自分らしく」
(1430円・弓立社) |
昨夏に「増補版」
要介護認定や成年後見、医療同意、死後事務委任、相続に関する制度の解説と、これらに関わる「お役立ち情報」、エピソードの数々、経験を積みながら培った自身の考え…。三国さんは17年に、それらを一冊に凝縮した「おひとりさまで逝こう 最期まで自分らしく」を著した。「終活のながれ」を示した上で、「元気なとき」から「相続」までを網羅。「生と死の間に“柵”はない。『死』を忌み、意識から遠ざけるのは『生』を貧しくしかねない」との信念を反映した著書は、中高年の単身者に限らず反響を広げた。
三国さんは「今も問題の本質は(初版出版時と)そう変わっていない」と話す。ただ、「今は、事例の蓄積が厚みを増した」。好例は90歳で夫を看取り、後にがんを発症した女性のケースだ。死別後も三国さんのサポートを得た女性は、車椅子での旅行を始め、94歳の今も“残りの人生”を前向きに生きる。三国さんは「余命宣告までされていたのに、『がんがおとなしくなった』と聞いたときは、さすがに驚いた。喜びを見いだした人間の生きる力はすごい」と笑顔を見せる。「おかげで僕も、自分の仕事に喜びと誇りを持てています」
新たな事例を加えた「増補版」を昨夏出版。成功例だけでなく、「心残り」の事例も盛り込んだ。遺言書作成が間に合わず、会ったこともない親戚に多額の遺産が渡ったケース、「自分が面倒を見る」と任意後見契約に反対していた家族が先に病に倒れたケース…。自分の意思で後見人を選べない法定後見の問題点も知る三国さんは、「社会の仕組みの“壁”を痛感するときもある。個々人の自覚と準備が最期のありようを左右するのが現状です」。増補版を手に言葉を継ぐ。「この本はいわば終活入門書。今は『おひとりさま』でない人も、『いずれは…』に思いを巡らせ、『これから』を考えるきっかけにしていただければ…」。上野の助言を思い返し、こう続ける。「積み重ねてきた事例はまさに『僕の宝物』。そして、それはやがて、『人生を豊かにする終活』を支える仕組み・システムづくりに役立つ『社会全体の宝物』にもなると期待しています」 |
|
| |
|