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相続と遺贈の違い 立川市/78歳男性 |
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喜寿も過ぎ、将来の相続のことを考えて遺言書を作成したいと思い立ちました。少し本で調べたところ、遺言書に「相続させる」と「遺贈させる」との文言がありました。この両者は同じか、それとも違うとすれば、どのように違うのでしょうか。
「相続させる」と「遺贈させる」との遺言は、財産を取得させる者の範囲や執行方法・放棄の手続きなどに違いがあります。財産を取得させる者の範囲からみますと「相続させる」旨の遺言は、法律で定められている、いわゆる法定相続人に財産を取得させる場合に限ります。これに対し、「遺贈」は遺言によって財産を無償で贈与することですから、法定相続人以外の者に財産を取得させる場合で、その範囲に制限はありません。
次に「相続」の遺言では、例えば不動産を受ける相続人は、単独で所有権移転登記をすることができます。これに対し、「遺贈」の場合は、遺贈を受ける者が移転登記をするには、共同相続人、もしくは遺言執行者と共同で申請する必要があります。この場合、共同相続人や、遺言執行者が登記義務者となるので、これらの者全員の印鑑証明が必要となります。登記原因も相続の場合は「相続」となり、遺贈の場合は「遺贈」となります。
また、最高裁の決定では、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言があったときは、被相続人死亡時に直ちにその遺産はその相続人に承継されるとしています。これは、遺言により「特定の相続人に単独で相続させる」という遺産分割方法の指定があったと解釈されるからです。したがって、「自宅は妻に相続させる」旨の遺言があれば、遺言者の死亡時点で遺産分割を必要とせずに、自宅は妻が所有権を取得して、単独で所有権移転登記手続きをすることができます。
次に、農地の権利の設定または移転には農業委員会の許可が必要ですが、「相続」の場合は許可が必要ありません。「遺贈」の場合も包括遺贈(遺産全部)のときは必要ありませんが、特定遺贈(遺産の中の一部を特定する)の場合は農業委員会の許可を必要とします。
遺産を放棄するには、「相続」の場合は、民法915条1項により、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」に相続放棄をしなければなりません。これに対し「遺贈」の場合は、民法986条1項で「遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができる」となっていて、放棄の期間について制限がありません。
弁護士 山下英幸
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