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遺言執行者の権限 三鷹市/58歳男性 |
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1年前に父が亡くなりました。自宅の土地建物と預貯金、それに株式などを所有する父は、亡くなる1カ月くらい前に自筆証書遺言書を作成していました。その内容は、財産の約半分を長男に相続させるとしてあって、遺言執行者は長男と指定してあります。相続人の間で分割については大筋で合意が成立しました。問題は父の葬儀、香典返し、法事の費用などを相続財産から支出し、相続税申告の費用もその中から支払うと書いてあることです。遺言執行者にこのような権限が認められているのでしょうか。
遺言執行者の権限について、民法には「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と規定されています。相続財産にはプラスの財産だけでなく、例えば父親の生前における借金、未払い賃料、光熱費、入院治療費などのマイナスの財産である債務も含まれます。また民法によると、「遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする」と規定されています。
そこで、葬儀や法要の費用の支出が債務の弁済、あるいは執行に関する費用に該当するか否かということになります。債務の弁済とするためには被相続人(父親)が生前中に負担した債務であることが条件となります。ところが、葬儀、香典返し、法事の費用は、被相続人の死亡後に発生するものですから、遺言執行者が相続財産から支出することは認められないことになります。ましてや、相続税申告の費用は遺言執行とは関係がありません。
次に何が遺言執行の費用といえるのかという点です。遺言執行の費用とは、例えば、相続財産目録作成の費用とか、相続財産管理の費用や不動産の登記名義変更に要する費用などが代表的なものです。葬儀、法要、相続税の申告費用などは含まれません。
これらについては、東京地方裁判所の判決でも葬儀、法要、相続税申告の費用などの支出は、遺言執行者の権限外の行為として、相続財産からの控除は認められないとしています。
もっとも、遺言書の中に、被相続人が希望する葬儀の場所や内容、その費用などを相続財産から支出するよう記載されているような場合には、遺言執行者の職務権限に属すると解する余地はあるでしょう。
弁護士 山下英幸
TEL:03-3508-0581 |
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